分院開設でより広い診療圏での訪問診療をカバーする
訪問診療専門診療所の開設後、順調に患者数が伸びていけば、患者の紹介元となるケアマネージャー、訪問事業者や近隣医療機関の評判も上がり、さらなる紹介の増加につながると思われます。
このとき、開業当初に想定していたよりも広いエリアの患者宅への訪問が増えるようであれば、効率よく患家を回る工夫をしなければなりません。
患家を効率よく回る工夫の一つが、分院開設により診療拠点を増やすという方法です。
目次
分院展開のパターン
分院を解説するパターンとして、①新規開設と②承継開設の2つの方法が挙げられます。
新規開設
新規に診療所を開設する手続きは、現在の診療所を開設したときと同じです。
ただし、一点だけ注意が必要です。
医師が個人で開設できる診療所(医療機関)は、一人一箇所となる点です。診療所の管理者はよほど特別の事情が認められない限り、「医師」でなければなることができません。また、一人の医師が2箇所以上の医療機関の管理者となることも原則認められていません。【医療法12条1項2項】
そのため、複数の診療所を開設する場合には、後述する『医療法人設立手続き』をまず行う必要があります。
※この場合も、一人の医師が複数の診療所の管理者になれるわけではないので、各院に管理者を置く必要があります。
承継開設
もう一つの分院開設方法が、承継開設です。
すでに存在する診療所を引き継ぐ形になります。この場合、①いわゆる「居抜き」(建物・設備のみ取得)で承継するパターンと②経営(患者やスタッフ)をそのまま引き継ぐパターンが考えられます。
従来のような、外来型診療所の承継であれば、立地や内装(とくにレントゲンなどを設置する場合には、特殊な工事が必要)を引き継ぐことができるメリットは少なくありません。しかし、訪問診療に特化した診療所の場合、物件選定の検討事項が外来型とは異なるため、診療所としての機能は重要ではありません。
また、②のパターンでも、従来も訪問診療を行っていた場合は別として、外来型診療所の患者やスタッフをそのまま引き継ぐメリットも余りあるとは言えません。逆に、同じように訪問診療を行ってきた診療所であれば、承継するメリットも少なくありません。
この場合も、複数の医療機関を展開するわけですから、やはり事前に「医療法人設立の手続き』を行う必要があります。
分院展開をするのであれば、まずは医療法人を設立する
複数の医療機関を開設する場合には、医療法人を設立する必要があります。
医療法人を設立するには、診療所所在地の知事の認可を受ける必要がありますが、当該認可申請は都道府県により若干の違いはありますが、概ね年2〜3回、指定された期間にのみ行うことができます。
つまり、医療法人でない限り、任意の時期に新規に診療所を開設することはできませんから、事業計画として分院展開も視野に入れているのであれば、半年から1年前から準備をすることをおすすめします。
分院開設→本院機能の移転
開院当初想定していた範囲外からの紹介の増加に限らず、順調に患者数が増えれば診療所が手狭に感じるかもしれません。
その場合、診療所の移転も検討しなければなりませんが、保険診療のルール上、2kmの範囲内の移転でないと、移転ではなく新規開設とみなされ、保険診療の継続ができません(1ヶ月保険診療のできない期間ができてしまいます)。
この場合も、医療法人を設立し、分院開設(後に本院機能を移転)することで、保険診療を継続しつつ本院の移転が可能となります。しかし、医療法人の開設手続きは自院のスタッフのみで行うのは困難ですので、専門家(医療法務専門行政書士や税理士)へ依頼することになりますし、設立後も年次の報告書の作成などこれまでにはなかった役所への手続きも必要となります。
本院移転のための分院展開であれば、節税対策と同時に目的の達成ができるタイミングにするのがいいかもしれません。