訪問診療専門診療所の経営を安定させる差別化戦略~常勤医師の採用

訪問診療専門診療所では、外来型の診療所のように、競合となる他院との差別化を図ることは容易ではありません。高度・専門的な検査や診療が行えるなど、従来の差別化戦略をとることが難しいからです。

訪問診療専門診療所の場合、安定経営のためには、最低でも「在宅療養支援診療所」の届出をしておく必要があります。

「在宅療養支援診療所」の施設基準を満たすためには、24時間365日往診等に対応できる体制を整える必要がありますが、訪問診療専門診療所の場合、さらに「看取り実績」などの要件が追加されます。

そして、この「24時間365日対応」と「看取り対応」こそが、数少ない訪問診療専門診療所の差別化ポイントのひとつとなります。

目次

医師を増やしても収益はダウン

安定的な収益をあげることと、在宅療養診療所の施設要件を満たすためには、院長独りの訪問診療体制ではすぐに限界が訪れます。院長の心身の負担を軽減し、24時間365日の訪問診療体制を維持していくためには、一定数患者を獲得できた時点から医師の採用を考える必要があります。

常勤医師2人=収益2倍ではない

患者数が50人(1日当10人前後)を超えたあたりから、心身への負担は徐々に大きくなるかもしれません。常勤医師が一人増えれば、単純計算で、2倍の患者を診ることができますが、採用当初から院長と同じ人数を任せることは現実的ではありません。1日当2~3人からスタートし、徐々に担当患者数を増やしていくのが現実的であり、また、医師の定着にもつながります。

その間も給与はしっかりと支払わなければなりませんから、当分は診療所からの持ち出しとなります(早期に離職となれば赤字)。

ここでは、自院の損益分岐点をしっかりと把握し、医師の育成計画を立てることも院長の重要な仕事になります。

採用ではなく「定着」してもらうことが大事

訪問診療はその性質上、他の医師が「常に院長の目の届く範囲」で活動しているわけではありません。そのため、診療時の患者さんや家族への接し方、多職種への対応など、適切なフォローが重要となります。

そのためには、診療所の理念や行動・判断の基準となるマニュアルをしっかりと文書化し、医師をはじめスタッフ全員に浸透させていくことです。

また、常勤医師を採用した後は、早期に非常勤でもいいのでもう一人医師を採用するなどして、採用した医師の心身の負担の軽減を図る対策も検討します。

「一人最適化」からの脱却

常勤医師を採用する際に最も重要なことが「一人最適化からの脱却」です。

医師採用は6カ月~1年を目標に行いたいところですが、そのころには院長の訪問診療や日々の業務の流れ、スタッフへの指示も診療所独自のスタイルが出来上がりつつあります。「ツーカー」「暗黙の了解」は決して悪いことではありませんが、組織が大きくなるうえでは、新しいスタッフが組織になじむ「壁」になりかねません。

新しく入職するスタッフが、早期に職場に慣れるよう、診療所の「理念」や「マニュアル」の文書化・整備は欠かせません。

まずは非常勤医師の採用で試行してみる

医師の採用は、いきなり常勤医師にするよりも、まずは非常勤医師を採用するのがよいでしょう。

財務的な負担も大きくなく、また、自院のマニュアルの改善の参考意見を取り入れるにもいいでしょう。一緒にマニュアル作成を行った非常勤医師が常勤医師になってくれれば理想的かもしれません。

医師が増えれば、併せてスタッフの増員も必要

常勤の医師が増えれば、訪問診療に同行するスタッフの雇用も必要となります。ユニットの構成は診療所ごとに最適と思われる構成を組みます(同行者は看護師である必要はない)。つまり、医師が1名増えるということは、同行するスタッフの人件費も増加するということです。その点も十分に踏まえたうえで、医師・スタッフの採用計画を立てていきます。

目標は常勤医師3人体制(常勤医師3名以上のメリット)

訪問診療専門診療所として安定したグループ診療を提供するには、最低でも常勤医師3名は欲しいところです。

訪問診療専門診療所が在宅療養支援診療所の届出をするための施設基準を満たすためには、「看取りの実績」が必要ですが、常勤医師が3名以上いれば負担もずいぶんと軽減できます。

機能強化型というメリット

在宅療養支援診療所は一定の要件をクリアすることで、「機能強化型」の届出を行うことができ、通常の在宅療養支援診療所で算定できる診療報酬よりもさらに多くの点数の算定が可能となります。

【機能強化型(単独型)の要件】

〇 在宅担当常勤医師3名以上

〇 過去1年間、緊急往診件等実績10件以上

〇 過去1年間、在宅看取り実績又は15歳未満の(準)超重症児の在宅医療の実績4件以上

(算定可能点数の例)

・緊急往診加算 在宅療養支援診療所:650点 ➡ 機能強化型:750点

・在医総管(月2回) 在宅療養支援診療所:3,700点 ➡ 4,100点

※「在宅緩和ケア充実診療所・病院加算」をした場合はさらにUP

更なる医師の採用へのメリット

常勤医師が3名以上在籍(定着)していることは、今後の医師採用にも良い影響を与えます。

新たに在宅医療に興味を持つ医師にとって、複数名の医師がいることは「安心材料」になります。この「安心材料」こそが、医師やその他のスタッフの採用において、他院との差別化になります。

院長から経営者へ

患者獲得のための更なる営業活動

順調に患者数が増えれば、院長独りでの診療体制の維持は限界を迎えます。医師を採用すれば、診療の負担は軽減されますが、更なる人件費が発生します(同行スタッフの分も)。損益分岐点をしっかりと把握し、しっかりと収益をあげるためには更なる患者の獲得が必要となります。

今ある紹介元との関係強化はもとより、新たな紹介元の開拓も当分の間は院長の重要な仕事になります。

組織マネジメント(人材を人財に育てる)

訪問診療に限らず、医業経営における最大の商品は間違いなく「ヒト」にあります。

よい人材は獲得するものではなく、育て上げるものです。何をもって「よい」かは診療所によって分かれるところですが、だからこそ自院にとって「よい」人材が自院で育つよう、理念の浸透をはじめ、マニュアルの改訂や学びの場への投資を含めたマネジメントはスタッフの増加と共に重要性を増していきます。