診療所の経営計画において在宅医療(訪問診療)の検討は必ずやっておくべき

在宅医療のニーズは、高齢者(特に80歳以上)人口の増加に伴い、今後もますます増えていきます。患者の年齢構造の変化は、患者さんの受診行動に大きな変化をもたらします。外部環境の変化にいち早く対応するためには定期的に診療所の経営計画を見直していく必要がありますが、残念ながら経営計画は開業のときに作ったきりでそのままという診療所がほとんどです。

経営計画が必要なのは開業当初だけではありません。

この先も10年20年と診療所経営を続けていくのであれば、在宅医療やオンライン診療など「患者ニーズ」にフォーカスした経営計画が必要です。

目次

いまこそ、在宅医療(訪問診療)について考えたい

近年では、患者側の価値観の要請に加え、収束の目途の立たないコロナの影響で、入院ができない患者の受け皿としての役割が在宅医療には期待されています。また、減少する外来患者(収益)対策としても在宅医療は診療所の収益の柱になりえます。

このような院長先生はお読みください

〇 減少する外来患者(収益)対策として、訪問診療を検討している

〇 最近、外来の患者さんからの相談がった

〇 5年10年の経営計画(クリニックとしてのビジョン)を考えたときに、今のうちから在宅医療に
  ついて検討しておきたい

〇 数年後の引退に向けて、長年通院してくれた患者さんのケアのため、在宅医療に徐々にシフトし
  いてきたい              

そもそも在宅医療とは

在宅医療とは「往診」+「訪問診療」

在宅医療は「往診」と「訪問診療」によって行われます。

両方とも、医療機関外(自宅等)で診療を行う点では同じですが、診療報酬算定においては区別されています。

訪問診療:あらかじめ決められた計画に基づいて、定期的に患者さんの自宅等に医師が訪問して診療を
     行うこと
     訪問診療開始前に、事前に患者さん又はそのご家族と書面での取り交わしが必要

往  診:患者さんやそのご家族の要請に応じて、適宜患者宅等に訪問して行われる
     訪問診療とは異なり事前に書面等の取り交わしは不要

つまり、「在宅医療」という場合、通常は「訪問診療」を指します。

役所への手続き

在宅医療を提供するにあたり、保健所や衛生局への特別な手続きは必要ありません。すべての医療機関が行うことができます。

ただし、「在宅時医学総合管理料」を算定する場合、「在宅療養支援診療所」として診療報酬を算定する場合には、施設基準の届出が必要になります。

24時間対応しなければいけないのか

いいえ。在宅療養支援診療所以外の場合、「24時間対応」は要件ではありません。

そのため、末期がんなどの重い疾患を持つ患者さんの訪問診療の依頼を受ける、看取りも含めて対応するまでは、24時間対応の訪問ナースステーションや、他の医療機関と連携するなどして、対応することになります。

看取りはしなければいけないのか

いいえ。看取りまでは条件ではありません。

看取りを含めた終末期の対応については、定期的にご本人やご家族、そして、日頃のケアに関わる看護師や介護士と話し合いの時間を持ち、極力患者さんの要望に沿う対応をとることになります。

「看取り加算」「死亡診断加算」の算定には、看取り時に立ち会っていることは要件とされていませんが、その場合、事前にご家族への説明や、対応については丁寧な説明を行います。

在宅医療の収入と費用

在宅医療の収入~モデルケース(月2回訪問の場合)

在宅療養支援診療所在宅療養支援診療所以外
在宅患者訪問診療料888点(×2)888点(×2)
在宅時医学総合管理料3,700点2,750点
包括的支援加算150点150点
居宅療養管理指導費295点(×2)295点(×2)
合計6,216点5,266点

今後、月2回算定できる患者さんの基準が厳しくなる可能性はありますが、この点数が、事業計画を立てる際の目安となります。

在宅医療の費用(人件費)

医師一人で行うのか、看護師など職員を帯同するのかによって、人件費の考え方は変わります。

看護師などの職員を帯同すれば、当然人件費が発生しますが、①医師は診察に専念できる、②直接医師に聞きにくいことも話すことができる、③患者さんや連携している機関との連絡・対応を医師以外ができるなど、職員を帯同するメリットがあります。

ここで注意したいのは、待遇をどうするかです。

既存の職員の場合:外来のみを想定して入職したため、想定外の負担と感じてしまう。
         手当を出すにしても他の職員とのバランスが難しい

新たに雇う場合 :就業規則等作り直す必要がある
         やはり、これまでの職員との待遇のバランスが難しい

在宅医療導入前に事業計画を立ててみる

在宅医療(訪問診療)訪問診療の対象となる患者

在宅医療の対象は特定の疾病に限定されていません(特定の疾病・状態にある場合、診療報酬の点数が高くなる)。

「寝たきりまたはこれに準ずる状態で通院困難な者」とされていますが、個々の患者がこれに該当するかの判断は、主治医の判断によります。「通院困難な者」については、「少なくとも介助を受けずに独歩での通院が困難な者」という基準が示されています。

そのため、訪問診療を始めるにあたり、「介護認定」を併せて申請する必要があるかもしれません。

在宅医療を提供できる範囲

訪問診療を提供できる範囲は、診療所と患者宅との距離が16㎞以内にある場合です。

これを超える範囲に訪問診療を提供できる場合として、①訪問診療を提供できる施設がない、②当該患者に専門の医療を提供できる医療施設がないなどの要件が課されます。

まとめ

1.ニーズはこれからも増加する見込み

  80歳を過ぎると、通院は大変 ➡ 「受け皿」は不十分

  ただし、地域によってはすでに、訪問診療の主要な層となる高齢者人口が
  減少傾向に転じている。

2.在宅医療(訪問診療)は患者単価が大きいが、これまでと異なる費用・雇用
  契約について考えなければいけない

3.外部の医療機関や訪問事業者との上手な連携が重要