医療法人設立認可申請前に行うべきこと
節税対策や分院開設などの手段として診療所の医療法人化を行う診療所は少なくありません。
医療法人を設立することで、院長が自由に使える診療所の資金や資産に制限がされる、社会保険への強制加入、年次の報告書等の作成などによる支出の増加など、従来にはなかった負担も生じますから、医療法人の設立認可申請手続きを始める前に、医療法人にするメリット・デメリットの比較検討をしっかりと行いましょう。
また、医療法人設立認可申請を都道府県が受けつける期間は限定されています(年間1~3回程度)。書類作成準備に必要な機関のほかにも、社員や役員の確保(調整)も行わなければなりません。
書類の作成自体は専門家に依頼すれば、それほど時間のかかるものではありませんが、医療法人設立後の運営をスムーズに行うためにも、準備期間はしっかりと確保したいところです。
目次
設立する医療法人の名称を決める
医療法人設立認可申請時に提出すべき書類は、場合によってはかなりのボリュームになりますが、専門家に依頼すれば費用は掛かりますが、解決することができます。
しかし、院長(通常、設立医療法人の理事長)以外が決めるのに馴染まない事項も当然いくつかあり、これについては、準備期間をしっかりととる必要があります。
その代表的なものが設立する医療法人の名称です。
通常、医療法人社団○○ ××診療所(クリニック) となります。
医療法人の場合、認可する都道府県内に既に同一表記の名称の医療法人が存在している場合、認められない場合がほとんどです。その他にも、そもそも使用できない文字がある(アルファベットは可)、医療広告ガイドライン違反の場合、また、自治体名の使用ができない場合など、せっかく考えた名称が使用できない場合があります。
そのため、設立医療法人の名称(候補)は複数考えておき、希望の名称が使用できるかは、事前に申請先の自治体に確認しておきましょう。
設立する医療法人の目的を決める
設立する医療法人の目的は、設立認可申請時に『定款』に記載する必要があります。
ここで、医療法人の目的とは例えば、”本社団は、診療所を経営し、科学的でかつ適正な医療を普及することを木目的とする。”などと記載します。定款に記載する目的とはあくまでも「事業目的」であり、決して「節税対策」となることはありません。
一般の営利企業(株式会社など)の場合、定款記載の目的の範囲でのみ事業を行うことができ、取引相手(金融機関なども含む)は公開されている定款から企業の事業の安全性や信頼度を図ることになります。医療法人においても定款の作成目的は同じような意味合いを持ちます。
社員・役員就任予定者の調整を行う
医療法人の設立のためには、法定の「組織」を備えていなければなりません(医師は一人いれば設立可能)。
「組織」といっても、決して大掛かりなものではなく、「社員」3名以上、「役員」として「理事」3名以上(うち1名が理事長。通常は院長)、「監事」1名以上が最小構成となります。設立時の社員が役員に就任することが通以上であり、手続きもスムーズです。
医師一人の医療機関が医療法人化する場合、院長が理事長に就任し、その他の社員/役員は親族が就任するパターンが多くみられます(節税対策という点では有効)。親族以外が、役員に就任するパターンとしては、分院の管理者(院長)は理事に就任する義務がありますが、医療法に定められた法定責任やその他理事としての職務を負担に感じ、就任を承諾してもらえないなど意外と難航する場合が考えられます。
医療法人設立認可申請をスムーズに行うためには、就任の打診から、時間をかけてしっかりと説明を行う必要があります。
必要な届け出を済ませておく
現在の診療所の概要が、診療所開設当初に保健所等に提出した事項から変更されている場合(特に図面・平面図)、あらかじめ保健所に現在の概要に合致する内容での概要の変更届を行っておきます。設立認可が下りた後、医療法人を開設主体とした診療所の開設届を行う際、すでに提出している概要と齟齬があるとそこで手続きが止まり、予定通りに診療所の開設ができない場合がありえます。
その他にも、金融機関や診療所が賃貸の場合、債務者や借主の変更について事前に相談を行い、手続きがスムーズに進むよう「根回し」をしておく必要があります。