在宅医療を受ける認知症の患者に遺言書を書きたいと言われたら〜遺言書作成に必要なのは行為能力ではなく遺言能力

数年来のいわゆる「終活ブーム」により、遺言書を作成している方の数は確実に増加しています。現在、加齢や疾病により寝たきりとなり、在宅医療の提供を受けている患者さんの中にもかつてお元気な頃に遺言書を作成されている方がいらっしゃることもあるでしょう。

在宅医療の利用者が増加する一方で、終末期に認知症を患っていた患者さんの相続(遺言書の有効性)について、医療機関が巻き込まれるケースが出てきています。遺言書を作成した時期の患者さんの認知機能について説明を求められたり、場合によってはカルテの開示を請求されることもあるようです。

そこで、認知機能に衰えが出てきた(認知症の)患者さんの遺言書を作りたい気持ちを尊重する方法はないのでしょうか?

目次

遺言書が有効なものとされるには

作成された遺言書が有効であると認められるためには、大きく分けて2つの要件を満たす必要があります。

自筆遺言書の様式(民法968条、同969条)

① 全文、日付、氏名が自書されていること

② 押印されていること

「遺言能力」(民法961条)

認知能力や事理弁識能力が衰えてくると、法律上、「制限行為能力者」として法律行為に制限がされてしまいます(もちろん、行為者を保護する目的で)。法律上は、成年被後見人、被保佐人、被補助人といったように、事理弁識能力の程度に応じて行為者が単独で有効に行うことができる法律行為に制限を加えていますが、一般的には「認知症になった」「ボケてきちゃった」など大きく一括にされてしまいがちです。

では、「制限行為能力者」とされてしまうと有効に遺言書を作成することはできないのでしょうか?

ここで重要なのは、「行為能力」≠「遺言能力」ということです。

一般的に遺言書に記載される(多額の)預貯金や不動産の処分(あげたり、売買・運用すること)は、行為能力の面から言うと「重要な財産の処分」ということになり、制限行為能力者は単独で有効に行うことができません。つまり、後見人の同意などが必要となります。

しかし、遺言能力は行為能力とは異なる評価を受けます。民法961条では、『15歳に達した者は、遺言をすることができる』とされており、これは行為能力の制限を受けません(同962条)。

法律上、制限行為能力者としてもっとも法的保護が必要と判断される成年被後見人であっても「一定の要件(民法973条1項)を備えれば、有効に遺言書を作成することができます。この場合、遺言者は、資産の価値や推定相続人との関係、遺言の意味内容を正しく認識できている必要があります。

在宅医療を受ける患者さんから遺言書の作成を相談されたら

以上のように、認知機能が衰えたことにより成年後見制度を利用する患者さんであっても、法律で定められた要件(医師2人以上の立会など)さえ満たせば、有効に遺言書の作成を行うことが可能です。

「終活ブーム」と「在宅医療」の浸透により、お看取り後に在宅医療を提供していた医療・介護職が患者さんの相続に巻き込まれる例が増えています。

患者さん御本人、あるいは日頃在宅療養を支えるご家族からご相談を受けることもあるかもしれません。そのときには、慎重に患者さんの事理弁識能力について判断する必要があります。

遺言書を作成する場合

1.医師2人以上が立会い、遺言者の遺言能力に問題がないかを判断する。

2.遺言書作成の状況を動画などで録画しておく。