遺産分割協議に時間制限はありません。しかし、相続税の手続きを行うまでに完了していないと各種の控除が利用できない。あるいは、空き家問題に発展しやすいなど、分割協議に時間をかけることは百害あって一利なしです。

 相続開始後7~14日、3カ月、10カ月に忘れてはいけないお手続のポイントがあります。これをうっかり忘れてしまうと、思わぬ負担を強いられることになります。

 うまく専門家を利用するなどして円滑にお手続を進めましょう。

7日~14日のお手続

① 7日以内

 ・死亡届 / 埋火葬許可(葬儀)

② 10日以内

 ・年金手続

③ 14日以内

 ・住民異動届 / 世帯主変更届
 ・健康保険  など

 その他、期限は特別に設けられてはいませんが、生命保険や、金融機関への連絡、クレジット・カードの解約・精算、電気ガス水道の解約・名義変更などがあります。

 故人の遺品の整理の際には、郵便物等のご確認にはとくにご注意ください。

3か月のお手続

 相続方法の検討と決定

 相続開始後(自己のために相続の開始があったことを知ったときから)3カ月以内に、相続方法を決定しなければなりません【民法905条】。民法では、次の3つの相続方法が定められています。

① 単純承認【民法920条】

 単純承認とは、被相続人の(一身に属する権利義務を除く)権利義務の一切を相続することをいいます。


 つまり、相続人の預貯金をはじめとする金銭、不動産のようないわゆる「プラスの財産」だけではなく、ローンなどの返済義務も相続することを指します。仮に、被相続人がどなたかの連帯保証人などになっていた場合には、少なくともお亡くなりになるまでに生じた債務については相続の対象となります。

② 限定承認【民法922条】

 限定承認とは、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済することを留保して、相続の承認をすることをいいます。


 少しややこしいのですが、簡単に言うと例えば評価額5,000万円の不動産と7,000万円の借金があった場合、̟̟財産の5,000万円を限度に借金の返済義務を負うとご理解ください。つまり、不動産を維持するためにご自身の預貯金で借金を返済するようイメージです。

 ただし、限定承認は相続人全員で行わなければならないことから、実際にはあまり利用されていません。

③ 相続放棄【民法938条以下】

 相続放棄とは、被相続人に属した権利義務の一切を放棄することをいいます。相続放棄をした相続人については、相続開始の当初から相続人ではなかったことになります。相続を放棄した場合、下位の相続人がいればその方が相続人となります。

 相続の放棄は、家庭裁判所に申述することにより行います。限定承認の場合と異なり、相続人がお一人ですることが可能です。また、相続の放棄は相続開始前にはすることができません。

 相続放棄は、マイナスの財産が過大な場合に利用されます。

 相続放棄を行うと相続人ではなかったものとみなされますが、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで自己の財産に置けるのと同一の注意をもってその財産を継続しなければならないと定められております。【民法940条】


 近年問題となっております、いわゆる「空き家問題」につきましても、相続の放棄をしたからと言って、何もせずにいることはできません。ご注意ください。

【注意!】

 相続開始後3カ月以内に、ご紹介した3つの内からどの方法により相続をするかを決定する必要があります。ここで、ご注意いただきたいことが1点ございます。それが、「法定単純承認」と呼ばれるものです。

 「法定単純承認」とは、簡単に言うと、相続財産に関して民法の定める一定の行為をしてしまうと、「単純承認」したものとみなされ、もはや相続放棄ができなくなってしまうというものです。

単純承認とみなされる行為【民法921条】

・ 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。

・ 相続人が915条1項に定める期間内に限定承認又は相続放棄
  をしなかったとき。

・ 相続人が限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続
  財産の全部又は一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意
  でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。

10カ月のお手続

 相続税の申告・納付は相続開始後10カ月以内に行う必要がございます。相続税の課税対象は基本的にはプラスの財産となります。プラスの財産から被相続人の債務や葬儀費用等を控除した額が課税対象額となります。
 また、基礎控除(3,000万円+相続人の人数×600万円)その他、法律で定める控除後の金額が相続税納付の対象となります。

 基礎控除以外の控除を受けるためには、遺産分割協議が終了しており、相続財産の帰属先が決定していることが要件とされているものがあります。また、相続財産の中には評価額の算定が困難なものもあります。相続財産の調査後、基礎控除を行った段階でなおプラスの財産がおありの場合、税理士又は税務署にご相談されることをおすすめします。

 なお、相続税の納付は、原則として現金による一括納付となります。