1.自筆証書遺言の要件

 自筆証書遺言は紙とペン、それに印鑑さえあれば手軽に作成できる反面、法律の定める要件をすべて満たしていないと遺言書としての効力が認められません。作成の際には、内容はもちろんですが、作成方法にも十分ご注意ください。

① 全文自著

② 署名押印

③ 日付(〇月〇日というように、日付を特定できる必要があり
  ます。)

 その他、加筆・修正にも厳格なルールが規定されています。この方法を間違えると最悪の場合、遺言書全体が否定されることになります。【民法968条】

 【自筆証書遺言作成のコツ】

① 内容は極力シンプルなものにする。

② 修正箇所が複数ある場合には、書き直す。

2.注意点

① 遺留分

 民法は、「遺留分」というかたちで、兄弟姉妹以外の法定相続人に相続分の最低保証を規定しています。遺留分減殺請求権を行使するかどうかは相続人の自由ですが、請求されてしまうと、残念ながらこれを拒否することはできません。


 遺留分減殺請求権が行使された場合、遺留分に相当する価額を現金により支払うことになります。仮に現金を準備できない場合、銀行から借り入れをするか、不動産など他の財産を売却するなどしなければならなくなります。

② 新しく作り直したい

 いったん遺言書を作成しても、その後の事情の変化により違う内容の遺言書を作成したいとお考えになることもあるかと思います。


 内容が矛盾する遺言書が複数見つかった場合、原則として、後に作成された遺言書が優先されます。もちろん、内容に矛盾がない個所については、先に作成された遺言書も有効となります。


 内容に大きな変更がある場合には、書き直しを行い、古い遺言書については無用のトラブルを避けるため、破棄してしまうことをお勧めします。

③ 遺言書を作成したことを伝えるべきか

 遺言書を作成しても、それが発見されなければ無意味となってしまいます。
 せめて、遺言書を作成してあること、保管してある場所などは伝えてもいいかもしれません。

 民法の改正により、法務局での自筆証書遺言の保管制度が始まりました。この制度を利用すれば、家庭裁判所での「検認」の手続きは不要となります。また、紛失、破棄や改ざんの恐れもありません。

3.法改正

 相続法が改正されたことにより、自筆証書遺言は大変利用しやすいものとなりました。

① 「財産目録」の作成

 これまでは、自筆証書遺言に別紙のような形で財産目録等を添付する場合、財産目録等についても自筆であることが要求されていましたが、改正により、別紙については、パソコン等での作成が認められることになりました。


 不動産が複数ある場合、書き損じなどで書き直さざるを得ないのはたいへんな面倒でした。自筆要件が外されたことで作成は随分と楽になりました。財産目録には決められた作成方式はありません。不動産が特定できるように記載されていれば問題はありませんが、ご面倒でも不動産登記証明情報と同じ記載にするのがよろしいかと思います。

② 遺言書の保管制度

 自筆証書遺言は、作成しても保管場所に困る方は多かったと思います。


 厳重に保管していたあまり、見つけてもらうことができず、遺産分割協議が行われる、ということもあります。すべての手続きをやり終えた後に、協議の結果と異なる内容の遺言書が見つかると、協議のやり直しとなるか、最悪「争続」の原因ともなりかねません。

 この度の改正で、自筆証書遺言を法務局で保管してもらえるようになりました。若干の手数料はかかりますが、紛失や改ざん、破棄の心配はなくなります。保管の申請の際に自筆証書遺言の要件を満たしているか確認も行われます(ただし、内容の有効性については確認されません)。

 遺言書の保管制度が行われるようになり、自筆証書遺言書と公正証書遺言書の差はあまりなくなりました。


 お客様がご自身でお書きになった自筆証書遺言書の内容のチェックのみを扱っている専門家もおります。保管制度をご検討の際には併せてご利用いただければ心強いかと思います。

 なお、遺言書を作成すると財産を処分できなくなるとお考えになる方もいらっしゃいますが、遺言書に記載した財産を処分することは可能です。