在宅医療を受ける認知症の患者さんが相続人になってしまった場合のアドバイス

在宅医療を受けている患者さんの多くは、高齢者です。

在宅医療を提供する医療機関が、患者さんのお看取り後、診療記録の開示を求められるなど相続に関連した問題に巻き込まれる機会が増えています。

在宅医療を受ける患者さんに生じうる相続問題として2つの場合が挙げられます。

1.患者さんが被相続人(お亡くなりになった)の場合

2.患者さんが「相続人」となる場合

ひとつは、遺言書が見つかった場合、作成当時に患者さんに有効な遺言書を作成する能力があったのかどうかが問題となるためです。在宅医療を受ける患者さんの多くが高齢者であることを考えれば、このような問題は今後ますます増えていくかも知れません。

もう一つ、在宅医療を受ける患者さんに生じうる相続問題として、患者さん自身が「相続人」になるケースです。たとえば、①不幸にしてご子息が先にお亡くなりになる(逆縁)場合。あるいは、、②「おひとり様」など、子のない患者さんの兄弟姉妹がお亡くなりになった場合です。

患者さんが相続人となったときに、ご家族や関係者から相談を受けたとき、どのようなアドバイスができるのでしょうか?

目次

相続人の範囲と順位

相続人の順位と範囲は民法で定められています。

相続人の範囲

1.配偶者 2.直系卑属(子、孫) 3.直系尊属(両親、祖父母) 4.兄弟姉妹

相続発生前に子が亡くなっている場合は、孫に相続権が生じます(代襲相続)。兄弟姉妹が亡くなっている場合にも同様に代襲相続が生じ、甥、姪が相続人となります。

逆縁(年少者が先に無くなる場合)、相続関係がより複雑になるのはこのためです。

相続人の順位

第1順位:直系卑属(子、孫) ※配偶者は常に相続人となります。

第2順位:直系尊属 第1順位者が不在の場合は、配偶者と直系尊属が相続人

第3順位:兄弟姉妹(甥、姪) 第1・2順位者が不在の場合は、配偶者と兄弟姉妹

配偶者の兄弟姉妹との交渉がほとんどないと、遺産分割協議では注意が必要です。

相続人が認知症の場合

遺産分割協議を行うには、「意思能力」が必要です。

意思能力がない者がした協議は無効

判例によると、『意思能力とは、自分の行為の結果を正しく認識し、これに基づいて正しい意思決定をする精神能力と解するべきであり、意思能力の有無は、個別の法律行為ごとにその難易、重大性なども考慮し、行為の結果を正しく認識できていたかどうかを中心に判断すべき』とされています。

つまり、認知症であるから必ずしも協議が無効になるというわけではありません。

意思能力がないと判断された場合

意思能力がないと判断された場合には、「成年後見制度」を利用します。

「成年後見人」が選任されていれば、原則後見人が本人に代理して遺産分割を行います。「保佐人」が選任されていれば、原則保佐人が同意又は権限の付与により本人に代理することになります。

患者さんのご家族や関係者から相談されたら

患者さんに生じた相続が「逆縁」(子が先に亡くなる)の場合、放棄をするケースも多いようですが、兄弟姉妹の場合はどうでしょうか?

在宅医療も期間が長くなれば、患者さんの経済への影響も少なくありません。できれば、相続したいと思うのは当然のことであり、それは他の兄弟姉妹にとっても同じことでです。認知症が進行しており、すでに後見人が必要な場合、ご本人が弁護士に依頼することもできませんので、「成年後見制度」を利用することになりそうです。

配偶者や子がいる場合、相続など(本人しかできないような)特別な法律行為の必要が生じなければ、成年後見制度をわざわざ利用する方は少ないかと思います。

しかし、今後「おひとり様」(独居、身内と疎遠)の患者さんが増えれば、これまで以上に後見制度などの知識や情報が医療機関にも必要になってきます。