戦略的医業承継のすすめ

 「事業承継」は経営者にとってあたまの痛い問題です。実際、多くの中小企業は「後継者不在」を理由に事業を廃止しています。これは、医業についてもまったく同じことが言えます。

 長年地域医療に貢献してきた診療所を閉院することは簡単です。しかし、ご家族(親族)や第三者へ診療所を引継ぐことをご検討であれば、数年単位で計画を立て、戦略的に行うことが必要です。

目次

医療施設の承継特有の問題

 医療機関の「後継者不足」の理由のひとつが「医師(歯科医師)以外継ぐことができない」ということです。医療法人であれば例外的に非医師(非歯科医師)が経営者(理事長)に就任できるケースもあり得ますが、個人開業の診療所の開設者として非医師が認められる場合はありません。

「死亡承継」は絶対に避けるべき

資産がごちゃ混ぜ

 診療所を個人で開業している場合、「個人資産」と「医業用資産」の区別がありません。死亡承継の場合、医業承継で最も重要なポイントである「医業資産の分散防止(集中)」ができなくなる可能性が出てきます。医業用資産は医師(承継人)以外の相続人にとってはほとんど価値のないものばかりですが、評価上、高額になる場合があります。

 事前に何の対策も取らないでいると、医業用資産以外の資産が残らない(最悪の場合承継人が身銭を切る)、最悪の場合承継自体を断念することになりかねません。また、親族以外の第三者(勤務医など)に診療を継続してもらう場合でも、医業用資産が個人資産である以上、勤務医がそのまま医業用資産を継続して使用する権限がありません。

「空白期間」

 診療所が個人開設の場合、仮に親族間での承継であっても、行政手続として(前院長の)「診療所廃止届」と(新院長の)「開設届」の手続きを行う必要があります。また、承継が突発的に生じてしまうと、「保健医療機関指定申請」を行う際に「遡及指定」を行うことができなくなる場合があります。「遡及指定」ができないと、保険診療ができない期間(約1カ月)が生じてしまいます。

 また、診療再開まで時間がかかってしまうと「患者離れ」や職員の離職の原因にもなります。

医療法人設立は有効か

 「医業承継」の準備として、医療法人の設立は有効です。理由としては・・・

□ 医業資産の分散を防ぐことができる(医業資産と個人資産の分離)

□ 行政手続が簡単(理事長の変更のみ)

の2つを上げることができます。

※ すでに医療法人を設立している場合でも、医業承継対策を万全にするために行うべき準備があります。

さごに

「確実に経営のバトンをつなぐ」ためには、数年単位での準備が必要です。承継で一番重要なのはお互いの「意思」が合致していることです。とくに、親族間承継の場合、どちらか一方の意思だけでは承継はうまくいきません。また、後継者が決まっている場合でも「経営者」としてのスキルも教えていく必要があります。その意味でも、「医業承継」は計画的に行っていく必要があります。

 個人開業では、医業承継対策は相続対策にもなります。併せてご検討ください。