クリニック開業時に最適な雇用人数

 医業の特徴として、「人件費の割合が高い」という点があげられます。給料はクリニックの費用と
しては、「固定費」に分類されます。
 クリニックの経営が軌道に乗るまでは、いかにこの固定費の金額を低く抑えることができるかが、
クリニック経営を失敗させないためのカギとなります。人件費を考える際は、「社会保険料」につ
いても忘れずに専門家の意見を考慮してください。

職員は何人雇えばいいのか

1.「診療圏調査」から考える

 多くのクリニックの場合、「看護師 2名、事務員 2名」を標準的な構成として「事業計画」を作
成していきます。常勤で雇う場合、地方により多少の違いはありますが、看護師の場合40万円前後、
事務員の場合25万円前後で計算します。
 初年度の賞与を見送るとしても、初期段階では大きな支出には違いありません。人件費を抑え
る観点からも、それぞれ1名をパートにすることも考えます。

 開院当初の比較的時間のある時間に、職員研修も兼ねるという考え方もありますが、そこは院長
先生の経営判断になります。

 「診療圏調査」で算出された患者数は、あくまで期待値であり、開院当初からその人数が来ると
言わけではありません。患者数の増加に合わせて従業員を適宜増やしていくつもりで、当初は少数
精鋭でいくという方法もあります。

2.クリニックの理念から考える

 クリニックの理念として、「ホスピタリティの重視」を掲げたとしましょう。それを実現するた
めには従業員の数を多めに確保することが必要だとお考えであれば、標準的な構成よりも当初から
少し多めに人材を確保する必要があるかもしれません。

 あるいは、クリニックの「ウリ」として、専門的な検査や、手術を行う予定であれば、それに見
合った人員構成にする必要があります。この場合、標準的な構成よりも人員が増えることによる人
件費の増加の他にも、特別なキャリアを評価した人件費の上乗せが考えられます。

3.身内に来てもらう

 配偶者やご両親、お子様が従業員として加わる場合、条件を満たせば「青色専従者控除」を受け
ることも可能です。

 配偶者の前職が看護師である場合、看護師のまとめ役となってもらうことで、人事にまつわる不
安が軽減されることが期待できます。また、事務や会計の経験があれば、その業務を任せることが
できます。とくにクリニックの構成は比較的女性が多いパターンになります。女性配偶者がうまく
院長先生と従業員の間を取り持つことで、クリニック経営にプラスに働くことが期待できます。

雇用条件

1.知っておきたい雇用条件(労働基準法)

 『使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して、賃金・労働時間その他の労働条件を明示
しなければならない。』(労基法15条①)とされています。

 なかでも、以下の労働条件については、明示することが義務付けられています。

① 労働契約の機関に関する事項

② 期間の定めがある労働契約を更新する場合の基準に関する事項

③ 就業場所及び従事すべき業務に関する事項

④ 始業終業時刻、時間外労働の有無、休憩・休日・休暇に関する事項

⑤ 賃金の計算方法等に関する事項

⑥ 退職に関する事項                     など

 その他にも、就業規則や雇用契約書など雇用に関係する書類はいくつもあります。これらの書類
については市販されているものもありますが、医療機関の特有の事情を考慮する必要がある場合は、
そのまま使うことで後々思わぬトラブルを生む原因となりかねません。

 雇用主となる以上、「知らなかった」では済まされないことがあります。

 できるだけ専門家の助力を得るべきです。

2.試用期間について

 面接の結果、人当たりもよく、経歴にも特に問題がなければ採用としたいところですが、その人
が院長先生のクリニックに適切な人材であるかはわかりません。その人個人の能力と向き不向きと
は全く関係がありません。

 お互いのためにも、必ず一定期間(通常は2カ月程度)の「試用期間」を設けるようにしてくだ
さい。本採用後の労働条件と異なる条件を設けることも可能ですが、トラブル回避のためにも、必
ず書面で確認をしてください。

雇用主になるということ

1.雇用主と従業員という関係

 勤務医を辞めてクリニックを開設するドクターのほとんどにとって、従業員を雇うということ(
雇用主になるということ)は恐らく初めての経験となるはずです。「何人を、どのような条件で雇
うか」よりも、「どんな人材を雇うか」がクリニック経営を成功させるうえで忘れてはいけません。

 また、これからは「医師と看護師」という関係の他にも、「雇用主と従業員」という関係が生じ
ます。雇用関係は経営者を悩ませる最大の経営問題でもあります。医療業界特有の事情として、さ
まざまな専門職の存在があげられます。専門職をまとめ上げることは院長先生にしかできません。
 そのためにも、クリニック開業準備の初期段階でしっかりとした「理念」を設計し、クリニック
で働く従業員全員の向かうべき方向を固めておきましょう。

2.向き不向きがある

 クリニック経営にとって最も重要なポジションをもつのは当然「看護師」です。はじめて人を
雇うことはどの院長先生にとっても大きな不安が伴います。そのため、看護師の候補として、勤務
医時代の気心の知れた、信頼のおける看護師に声をかけるケースは多く見られます。

 ここで注意しなければいけないのが、「果たしてこの看護師はクリニック向きか?」ということ
です。どんな人間にもその人個人の能力(ここでは看護師としての能力・技術)に関係なく、向き
不向きがあります。
 病院とクリニックの役割や仕事の内容は異なります。とくに入院病棟での看護師のスキルのみを
評価して引き抜いたとして、果たして外来のみのクリニックでその看護師の能力を生かすことがで
きるでしょうか?引き抜いた看護師に従来のように輝いていてもらえるでしょうか?

 引き抜くということは、「退職・これまでのキャリアの終了」をお願いすることでもあります。
慎重な判断をしなければなりません。

 看護師をはじめとする専門職は慢性的に人手不足の状態にあり(とくに都心部)、転職先が比
較的見つかりやすい業種でもあります。そのため、転職の回数が複数回あることも珍しくありませ
ん。ひとつひとつの雇用期間があまりに短い場合は要注意なのは言うまでもありません。